Book: 『同じ時のなかで』

【本】★★★★1/2
題名:同じ時のなかで
著者:スーザン・ソンタグ
(2009/NTT出版)

2004年12月に永眠したソンタグ氏が、精力的に世に訴えたエッセイやスピーチをまとめた書籍。美について、ロシア文学、9.11、9.11以後、アブグレイブ刑務所での拷問が意味すること、授賞式のスピーチ、写真論など、多岐に渡るテーマでありながら、「人とは何か、生きるとは何か、美とはなにか」という姿勢が貫かれている。真の知識人というのは、作家がそうであるように、ジャンルや国境を飛び越え、人をより自由にしてくれる存在なのかもしれない。そいういう楽しみと深みを教えてくれる一冊です。本著に収録されている「言葉たちの良心」エルサレム賞受賞スピーチは、とてもすばらしい。機会があれば、ぜひご一読を。


作家がすべきことは、人を自由に放つこと、揺さぶることだ。共感と新しい関心事へと向かって道を開くことだ。もしかしたら、そう、もしかしたらでかまわない、今とは違うもの、より良いものになれるかもしれないと、希望をもたせること。人は変われる、と気づかせることだ。

(p.224)


Book Picks

【本】★★★★★
題名:見えない音、聞こえない絵
著者:大竹伸朗
(2008/新潮社)

著者にとって描く事、何かをひたすら貼付けること、そして言葉と言葉を繋ぎあわせることもすべて同一線上の行為にある。一般的な時間とは別に、五感の響き合いだけでしか進めることができない自分時間が少しずつ進行していく。晴れなかった頭の霧が少しだけ薄くなった心持ちになる。より効率的に、無駄なく快適にといった「退化する進化」の生活様式からポロポロとこぼれおちる大切なことに、もっと目をこらし、耳をすませてみたくなる。






楽しいことはこの世にたくさんある。あり過ぎるほどある。いろんな経験を積み、さまざまな価値観を持つ人々と話をすること。そんな出会いがとてもなく重要であることももちろん理解できる。しかしそこには自分が絵を描くことで感じる「時間感覚」はない。その「時間」が流れない限り、何か空しい。その「時間」を感知し続けることでのみ「時間」を意識できる。好きな絵に出会った時はその瞬間内側に確かな時間感覚を覚える。

(p.278)

Book Picks

【本】★★★★★
題名:ちきゅう ぐるぐる
著者:山本浩二
絵:子どもたち
(2004/金沢倶楽部)

10才にもみたない巨匠たちにただ驚くばかり。凝り固まっていたココロを、解きほぐしてくれる。描くことが気持ちの痕跡を現すのだと気づけば、作品は技術を超えたものになっていく。



成長を始めたばかりの子どもたち。その心の世界はまだ小さくて幼い。しかし、子どもたちの理解する言葉で物事の本質を伝えることができた時には、奥深い表現が可能になる。用意された答に自分を近づけようとするのではなく、答が自ら内にあると気づいた時、子どもたちは奥深い表現を始めるのである。それは直感的、感覚的であるばかりでなく、知的でさえある。私たちが技術的な稚拙さや、見せ方の不器用さにだまされずにその真価を見出すことができれば、その知性の、歴史と時代意識に通底していることの意味が理解されるだろう。美術は深い所でつながっている。子どもたち、美学生、画家は、同じ地下茎から生まれた一本の樹である。そして、その表現されたものを楽しみ、時に精神的な影響を受ける人々もまた同じ土の中から生まれた。歴史は、過去も現在も未来も1つにつながっている。

今日も明日も、地球はぐるぐると回っているのである。
私はそのことに気づくのに20年の時を要してしまった。それは私の心が開かれていく過程そのものだったが、数えきれない失敗の後に分かった事は、全ては子どもたちに訊けば良いという事である。おもならず、また高飛車にならずに心の奥底を引き出すことができた時には、私たちは新鮮な体験をすることができるだろう。そこには簡素で幼い知識の中で、必死に掘り下げようとしている子どもたちの精神の真実がある。私たちのすべき事は、到達し得ない高い次元を自分もまた夢見ることであり、その事について語り、共に仰ぎ見る場所にたつことである。人に教えるという事が知識の伝達に終止するなら、教え子は皆、教師の矮小化されたコピーとなるだろう。高い理念と精神の遊びが伝わった時、初めて子どもたちは大きなエネルギーを噴出して、悠々と私たちを超えてゆくのである。

山本浩二

(本著より抜粋)

Book Picks

【本】★★★★
題名:レヴィ=ストロースの庭
著者:港千尋 (2008/NTT出版)

昨年、享年100歳で逝去したフランスの文化人類学者で思想家のクロード・レヴィ=ストロース(Claude Levi-Strauss)。貴重な巨人のプライベート空間、世界各地で撮影された写真といくつかのテクストで構成されている。表紙の一部であるポートレイトは、静謐な美しさを漂わせながらも果てしない思考の繁茂を感じさせてくれる、すばらしい一枚です。

森は地上の無秩序としてではなく、
わたしたちの世界と同じくらい豊かで
その代わりにさえなるような、
惑星の新世界としてたち現れるのだ。

—-クロード・レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』(1955)より

Book Picks

【本】★★★★
名:終わりと始まり
著者:ヴィスワヴァ・シンボルスカ
(1997 / 未知谷)

1996年、一人のポーランド女性にノーベル文学賞が授与された。この本を紹介されるまで、私もこの方の詩は未読でした。そもそも詩が日常生活に介在して ないという現実に気づき、哀しくなる。原語が持つリズムや深みを理解できればもっといいのですが、それでも訳者の方が心を砕き日本語に置き換えていること は十分に読み取れます。詩のほかにノーベル文学賞記念講演のスピーチも収録されているのですが、これもとてもすばらしいです。








『終わりと始まり』


戦争が終わるたび
誰かが後片付けをしなければならない
何といっても、ひとりでに物事が
それなりに片づいてくれるわけではないのだから

誰かが瓦礫を道端に
押しやらなければならない
死体をいっぱい積んだ
荷車が通れるように

誰かがはまりこんで苦労しなければ
泥と灰の中に
長椅子のスプリングに
ガラスのかけらに
血まみれのぼろ布の中に

誰かが梁を運んで来なければならない
壁を支えるために
誰かが窓にガラスをはめ
ドアに戸口を据えつけなければ

それは写真うつりのいいものではないし
何年もの歳月が必要だ
カメラはすべてもう
別の戦争に出払っている

橋を作り直し
駅を新たに建てなければ
袖はまくりあげられて
ずたずたになるだろう

誰かがほうきを持ったまま
いまだに昔のことを思い出す
誰かがもぎ取られなかった首を振り
うなずきながら聞いている
しかし、すぐそばではもう
退屈した人たちが
そわそわし始めるだろう

誰かがときにはさらに
木の根元から
錆ついた論拠を掘り出し
ごみの山に運んでいくだろう

それがどういうことだったのか
知っていた人たちは
少ししか知らない人たちに
場所を譲らなければならない そして
少しよりももっと少ししかしらない人たちに
最後にはほとんど何も知らない人たちに

原因と結果を
覆って茂る草むらに
誰かが横たわり
穂を噛みながら
雲に見とれなければならない

(p.22)

Book PIcks

対称性【本】★★★★1/2
題名:カイエ・ソバージュ5: 対称性人類学
著者:中沢新一
(2004 /講談社選書メチエ291)

いよいよ『野生の思考』をめぐる旅の最終巻。学問や制度化されている仏教は別として、仏教そのものは宗教ではなく古代の対称性の思考が脈々と活きずいている思想。新たな関連性の発見は大きな収穫でした。人間が都合よく創り出した<一>の魔力が、どれくらい世界を覆っているのかが見えてくる。一神教の宗教間で綿々と続く対立、9.11や経済危機の先にあるべき現代の平和学のヒントが、対称性人類学にあるのかもしれない。ピンポイントで印象深かったのが、先住民たちの「自然智」「秘密智」という概念。育児や食事をしたりという日常生活で生まれてくる女性特有の知性が「自然 智」、男性が追い求める非日常的な知性が「秘密智」。人類学者と先住民の女性とのエピソードはなんとも興味深い。


何週間ものあいだ男たちがペヨーテの体験を求めて巡礼の旅に出ているあいだ、女たちは村に残り、冒険の旅に 出ている男たちの無事を祈っていました。そして、ようやくぼろぼろに疲れて戻ってきた勇気ある男たちを、女たちは村境に出かけて迎えます。そのとき出迎え に出た一人の経験豊富な物知りの女性に、人類学者が問いかけます。

「男たちはああやって貴重な知恵を求めて冒険に出ていきます。ところが、女の人たちは村でそれを待つだけです。なにか不公平ではありませんか。女性はそう いう知恵に近づくことを許されていないわけですから、差別があるのではないのですか。」

これにたいして村の女性が笑いながら、こう答えたそうです。

「男たちはかわいそうに、あんなにでもしなければ、知恵に近づくことはできないんだよ。ところは女は自然のままにそれを知っているのさ。」

すぐれた先住民の女性たちは、男たちがこっそりと手を入れようとしている念願の「秘密智」という目的地に着いてみると、そこにははじめから「自然智」が 待っていて、男たちの英雄的な行為を優しく迎えてあげるのだ、そんなふうにして秘密結社的な「秘密智」とナチュラルな「自然智」はいずれひとつに結びつく ものなのさ、と考えている様子なのです。

(p.142)


Book Picks

【本】★★★★1/2
題名:カイエ・ソバージュ4: 神の発明
著者:中沢新一
(2003 /講談社選書メチエ271)

古代人の思考をこんなにイメージできたのは、初めてです。現代人の死生観とは、まったく次元が違う。まるで、平面だと思っていた地球が「実は丸いらしいよ」というレベルの衝撃でした。美術だ、科学だ、宗教だ、経済だ、すべてが繋がっていく。途中で本を閉じ「メビウスの輪」をつくり、帯の中心ラインで切れ目を入れる。不思議なことに裏と表がある輪ができる。そこに世界が変わる瞬間があった。








生死観が表裏一体した古代人の思考モデル

集落も生死が混在した面白い配置になっている

Book Picks

【本】★★★★1/2
題名:カイエ・ソバージュ3: 愛と経済のロゴス
著者:中沢新一
(2004 /講談社選書メチエ260)

経済を語った本は捨てるほどあるが、本質に迫った書籍なのでは、と興奮。欲望を通じて結びつく「愛」と「経済」。取っ付きにくいテーマと興味が尽きないテーマを融合させ、志賀直哉『小僧の神様』で読者を自然と惹き付ける運びは卓越している。古代の贈与関係と宗教、神話、マルクス、歴史を超えて浮かぶ、現代のトリックワールドの姿。本を閉じ、誰も気がつかない些細なものだけれど、大きな世界の装いの変化にそっと身を置いてみる。


ロゴス=世界を全体として捉える力

Book Picks

【本】★★★★
題名:カイエ・ソバージュ2: 熊から王へ
著者:中沢新一
(2002 /講談社選書メチエ239)

神話を介しての「対称性の思考」の解説はとても魅力的。かつて、人と動物の関係は思考上では結婚するほど密接で同等なものだった。お互いの存在を行き来で きる意識レベルに、あらためて驚く。中でも熊という動物が、いかに神聖で重要かが伺える。宗教が生まれる前の、「国」が出来る前の人のほうが、随分とまと もだったようです。形成する社会が「野蛮」という領域には足を踏み入れてないのですから。

Book Picks

【本】★★★★
題名:カイエ・ソバージュ1: 人類最古の哲学
著者:中沢新一
(2002 /講談社選書メチエ231)

この人の講義を聞きたい!という欲求を満たし、ライブ感も味わえるシリーズもの。引き寄せられるように手にしたのは、今月4日に20世紀が誇る知の巨人レヴィ=ストロースが逝ってしまったからか。故人から多大な影響を受けている著者を通じ、『野生の思考』の感触を味わってみたくなる。人類学、哲学、美術、自然、文化そしてあの世やこの世…etc、果てしない旅の入口はシンデレラ物語だった。

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【本】★★★★★
題名:大竹伸朗 全景 1955-2006
著者:大竹伸郎
(2008 / グラムブックス)

2007年東京都現代美術館全フロアで行われた個展を、丸一年かけてまとめた『全景』の公式カタログ。片手なんぞでナメて持つと脱臼します。視覚を通じて 世界観を感じる書籍はあるが、身体で感じる本はなかなか無い。入れ子のようにカタログが収録され、底なし沼の作家性に完全に呑まれてしまう。素晴らしいと いう言葉よりも、「なんだか猛烈にすごい」本です。




1200ページ、総重量が6kgというすごさ。
(広辞苑が3.5Kg お米5kgよりも重い…)

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Book Picks

【本】★★★1/3
題名:アンリ・カルティエ=ブレッソン
著者:クレマン・シェルー
(2009 / 「知の再発見」双書143)

報道写真のレベルを芸術の域に押し上げ、力強く裏付けられた「なまざし」の軌跡を豊富な資料で辿る。画家を目指し絵画やスケッチにより培った構図、ジャ ン=ルノワールやシュルレアリズムの関わりもあったとは。被写体との距離感、「その時」を待つことの重要性、「マグナム」設立、と守るべきものを貫くため にしてきたこと。残されている簡潔な言葉の一つひとつが詩のように響く。


「自分の存在を忘れさせることができたときしか、被写体は重要性を持たず、写真は力を持たない。このような 態度によってのみ、なにかしら心を打つものに触れることができる」(p.145)

Book Picks

【本】★★★★
題名:アート:”芸術”が終わった後の”アート”
著者:松井みどり
(2002 / 朝日出版社)

80年から90年代の20年間のアートシーンを駆け抜ける。より深い知的欲求不満を満足させるというよりも、代表作を通じて時代の色や感触を味わうためのものです。社会情勢と有機的に絡み合いながら浮かびあがる表現の数々。意図的に作家が歴史的文脈を取り入れなくても、否応なしに時代の空気を感じ取り、影響され、表現せざるおえない欲求の塊。自然とそれら集合体は時代の風景画に見えてくる。

純粋に「観賞」を楽しむのではなく、「観賞」から何かを考えるというような受け手の変化も、まさに現在の状況そのもの。作品の作制に参加してもらうことで、社会的科学反応を起こす流れが強くなったのは、とても自然なことですね。

Book Picks

【本】★★★★
題名:高松次郎ー思考の宇宙
(2004 / 府中市美術館・北九州市立美術館)

『影』シリーズ、『遠近法・波・弛み』シリーズで思い出される方も多いハズ。デザイン界の重鎮、倉又史郎にも強い影響を及ぼした芸術家といえばこの人でしょう。不在が与える緊張感、そこにあってそこにない感触が持ち味の作品が多い。

できそうで、決してマネできない。ジャンルを問わず美術作品に必要不可欠な要素は、「緊張感」と「品」なのだと、作家の宇宙を漂いながら再認識する。

Book Picks

本】★★★★
題名:ぼくには数字が風景に見える
-Born on a Blue Day-
著者:ダニエル・タメット Daniel Tammet
(2007 / 講談社)

『レインマン』の主人公と同じサヴァン症候群といえば、大抵の方がどんなものか想像がつくのでは。著者自身の手記でもあり、もうひとつの美しい世界があ る。能力を育む周囲の愛情と彼自身の生き方から、多くのことを学ぶことができる。彼が静かに暗唱する円周率の美しい旋律、22,500個+αの数字ひとつ ひとつが、形、光、色を発しながら輝くスカイラインのような風景。想像するだけでゾクッとしてしまう。

語学にも天才的能力を発揮するダニエルは、
独自の言語『マンティ』を作りこう語っていた。



マンティは、ぼくが内面世界を表現するときの具体的な伝達手段となっている。それぞれの言葉がきらきらと美 しく輝いていて、色も質感もともなっている。まるで芸術作品のようだ。マンティで話したり考えたりすると、言葉で色を塗っている気持ちになる。

(p.199)

Book Picks

【本】★★★★
題名:恋する西洋美術史
著者:池上英洋
(2008 / 光文社新書)

「恋愛」、それは永遠の謎のひとつ。その媚薬から西洋美術史を覗く。ギリシャ神話の奔放な神々は、今だったら完全な犯罪者だよな……という発想は、現代病ですよとツッコミが入る。中世夫婦生活のルールやら寝とられ男の話など、古代から近代までギュッと詰まった愛の形。キスひとつにしてもカノーヴァの彫刻、クリムトの官能的なものから、マグリットの覆面をした形式的なものを並べ、キスの魔力が失われているという説はとても興味深い。目次を眺めるだけでも面白いです。






目次

第一章  恋する画家たち
1-1 自らの作品に恋心を抱く ーピュグマリオン
1-2 愛された女たち
1-3 悪い男 ーピカソの色好み
1-4 憎悪に変わる愛 ーカミーユ・クローデル

第二章  愛の神話
2-1 ゼウス ー浮気性の最高神
2-2 クピドの矢
2-3 愛の女神
2-4 逃げる男と追う女
2-5 逃げる女と追う男

第三章  愛のかけひき
3-1 キス ー甘美な瞬間
3-2 恋文 ー気持ちの伝え方
3-3 女らしくあるために
3-4 男らしくあるために

第四章  結婚 誓われた愛
4-1 夫婦の肖像
4-2 カップリングと初夜
4-3 妻という仕事
4-4 不釣り合いなカップル

第五章  秘められた愛
5-1 夫婦の寝室
5-2 溢れる性愛
5-3 他人の妻は、蜜の味

第六章  禁じられた愛
6-1 金で買われる愛
6-2 同性愛とタブー

第七章  愛の終わり
7-1 嫉妬
7-2 離婚、死別
7-3 永遠の愛



どれもみな、愛、愛、愛のカタチ。

Book Picks

【本】★★★★
題名:超・美術館革命 金沢21世紀美術館の挑戦
著者:蓑 豊
(2007 / 角川書店)

学生の頃、高速バスに乗り込みドキドキしながら美術館に着いた感覚が蘇ってきた。SANAAの手がけた画期的かつ活気的な空間に、いろいろな目的を持った人が集っていた。その風景に素直に感動している自分がいた。著者は、その革命ともいえる成功の引率者だが、単なるノウハウ本とは違う別次元の大切なことを語っている。そう感じるのは、人生で得たことをきちんと言葉にされているからなのかも。困窮する美術館のみならず、関わる地域全体がどうあるべきなのか、 21世紀のコミュニティの楽しい可能性を提示されている気がしてなりません。

小学4年生をターゲットに!本物をみせなければ人は育たない、美術は異文化コミュニケーション言語、ボランティア活動の日米の違い、集客のために知恵をしぼり経営哲学を取り入れること、そして心を豊にするためにたくさん本を読むことなど、大切なことを再認識させてくれる。こういう感触がある本に出会うと、とても嬉しくなる。事業でも人生でも、規模に関わらず結局はやるかやらないかの問題。物事の結果の差異は、実践、調整、継続の延長線上にあるだけなのだから。


日本人は本当に本を読まなくなった。本は心を豊にするのに、いかに大事なものか、言うまでもないだろう。テレビは瞬間的であって、ほとんど記憶に残らない。しかし、読んだ本のことは記憶に残り、蓄積され、心を豊に育てる。受動的に情報を受けとるテレビと違って、自分で活字を追っていけば、想像力もつくし、論理的考え方も鍛えられる。本は美術や音楽と並んで、人間の心を豊にする基本的ツールなのだ。

しかしながら、日本の子供たちは本を読む習慣を失ってしまった。それには、大人の責任もある。お父さんが仕事で疲れて家に帰ってくる。帰ると茶の間で、ビールを飲みながら、テレビで野球中継やサッカーをみる。そんな背中を毎日見せられていたのでは、子どもは本を読む気にならない。新聞でもなんでもいい、何か読んでいる姿を子どもたちに見せることだ。

(p.105-106)

Book Picks

【本】★★★★
題名:アーティストは境界線上で踊る
著者:齋藤環
(2008 / みすず書房)

精神科医が紐解く現代アーティスト23人たち、と切り口に惹かれる。主に美術手帖で連載されていたインタビューをまとめたもの。ときに第三者の批評がノイ ズ化してしまうときがある。本著が高い質を保っているのは、作家の肉声を収録していることが大きい。齋藤氏の解釈も含めテクストは量も盛り沢山。各章どれ も興味深いのですが、やはり個人的に好きな山口晃、杉本博司、高嶺格などを食い入って読んでしまった。

大きな収穫として、美術作家は創り出した作品と対峙し発展させていくことができるという点でアウトサイダー・アートとの絶対的な違いがあるという指摘に、 長年の問題が解けた快感を覚えた。

Book Picks

【moshimoshi-Books no.65:美術】
題名:西洋画人列伝
著者:中ザワヒデキ
出版社:NTT出版
発行:2001

著者がルネッサンスから20世紀美術で活躍した偉人達に成り代わり、紹介文がすべて一人称で書かれている。ダ・ヴィンチ、ベラスケス、ピカソ、ウォーホー ルなど総勢60名が、それぞれのポリシーや時代背景を語るのですが、何と言っても超人なりの悩み、人間臭さにぐいぐいと引き込まれてしまう。こういう美術 史の表現の仕方があったのかと驚きと同時に嬉しくなる。中ザワ氏お手製のCG図版や肖像画も見物です。





それでは、序文より


著者から見ても奇天烈な本に仕上がった感は否めない。本書が学術書なのか小説なのか、文芸書なのか美術作品なのか、はたまた専門書による啓蒙書なのか素人 ならではのアイディア本なのかは、おそらくどれでもないし、どれでもあるのだろう。本書が広く愛読されることを願う。

中ザワヒデキ

目次の偉人サブタイトルも傑作です。


ああ、遠近法とはなんと素晴らしいものか(ウッチェロ)
絵画は「世界を映す鏡」である(ダ・ヴィンチ)
森羅万象から生まれた「ダブルイメージ」(アルチンボルト)
いったい絵はどこからはじまるのか?(ベラスケス)
天使は描かない。なぜなら見えないから(クールベ)
その動き!その瞬間!(ドガ)
女は天使であり、そして娼婦でもある(ロセッティ)
花は眼球、蝶は霊魂(ルドン)
小さな嘘を重ねて大きな真実を作る(ボナール)
自然をつらぬく叫びを聞いた!(ムンク)
絵画とは、破壊の集積にほかならない(ピカソ)
あらゆるものには意味がない(デュシャン)
「実在主義のカウボーイ」だと?(ポロック)
僕は退屈なものが好きだ(ウォーホール)

などなど

Book Picks

【moshimoshi-Books no.64:テキスト】
題名:近代美術史テキスト
著者:中ザワヒデキ
出版社:トモズブックス
発行:1989

美術家の中ザワヒデキが眼科医時代に手がけたオール手書きの「近代美術史テキスト」。縦150x横105x厚さ3mmのコンパクトサイズでありながら、全 15章の内容は濃い。イラストレーションの分野で才能を発揮しただけあって、図版、文字など味がある。親しみやすさの中にも、鋭い刃が隠れている。

序文の文章に妙に納得する。




そもそも’歴史’とは何かと言いますと、それは過去の事実を受動的に記述する行為のことを指すのではなく、現在の目をもって、過去の本質を能動的に読み取る行為のことをいう筈です。ピカソが「セザンヌは素晴らしい!」というときはまさしくこの場合であり、ピカソがセザンヌに影響した(ピカソがセザンヌの存在をクローズ・アップした)という言い方が正しいのです。

前置きが長くなりましたが、要するに「現在の自分が歴史をつくる」ということが言いたかったのです。今回は、私は近代美術に関する歴史読本を書きましたが、この意味で本書は現在の私が創作した近代美術史です。アナタが創作した近代美術史とは若干異なるかもしれない。あるいは何年後かに私は全く違う近代美術史を創作しているかもしれない。

ーーでもとにかく、歴史とは、あるいはすべての人間の行為は、本来このように徹頭徹尾「現在の自分」から端を発しているのだという視点に立って、本書を読んでいただければ幸甚です。

1989. 初秋 中ザワヒデキ

Book Picks

【本】★★★★1/2
題名:苔のむすまで
著者:杉本博司
(2005 / 新潮社)

時間を超越するような作品性が、文章になっていてもいっこうにブレていない。むしろ奥行きの深い文章に驚いてしまう。用いられている言葉のひとつひとつ、 資料や作品の写真、構成、気がつくと悠久の物語に引き込まれている。感じていたもの以上に、もっともっと遠くを観ていた。作家自身も「能」舞台を手がけて いるのですが、過去、現在、そして幽玄の世界が入り交じる特異な空間性が作家の感触として一番近いのかもしれない。

「美」というものは、現世で触れることができる唯一のあの世の片鱗。
どこかで読んだ文章を、ふと思い出した。

Book Picks

【本】★★★★
題名:アースダイバー
著者:中沢新一
(2005/講談社)

縄文時代の陸と海を地層から読み取り、お手製の地図を片手に東京をダイブする。 このような形で東京というメトロポリスを官能的に描けるのは、この人しかいない。 乾いた大地と湿った大地で繰り広げられる人間の営みは磁場の力と結びつけられ、現在に息ずく根源を見る。 ミクロからマクロな視点へと繋がり「東京」を俯瞰した時、今までに抱いたことのない魅力を感じた。

乾きと湿りの原理は、デザインと芸術の違いのヒントな気がしてならなかった。

面白い、久々に面白かった。

Book Picks

【本】★★★★★
題名:
芸術人類学
著者:中沢新一
(2006 / みすず書房)

自然サイクルの中で存在していたホモエレクトスやネアンデルタール人などの旧人から、突如《「心」の流動性》を身につけた現生人類であるホモサピエンス・ サピンエンス。「狂った生物」として目覚めた瞬間から脈々と今日に受け継がれ、心の深層部分に活きずいている「野生」の沃野を巡る旅です。 本当に魅せられてしまうものには共通した何かがある。 昨年体験した、直島の護王神社と南寺、金比羅さんの山頂、イサムノグチ庭園美術館の丘の上で感じた一連の感覚が忘れられない。


私たちの心の内部には、まだ「野生」の沃野が残されてます。どんなに合理的な社会管理や経済システムが世界を覆い尽く勢をみせているとはいえ、私たちの心 から現生人類への最初の飛躍を記念するあの偉大な徴は、消え去っていません。 いや、人類が生き残っているかぎり、その徴は消えようがありません。 芸術 は私たちの心の奥底に眠っている、この記憶の領域、いまだ野生を生き続けているこの思考の領域を、表現の中に取り出してみたいという欲求を抑えることがで きません。
(P.24)

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