Book Picks

本】★★★★★
題名:百年の愚行
編集統括:小崎哲哉
出版社:紀伊国屋書店
発行:2002

100枚の写真から人類が20世紀に犯した過ちを振り返る。数万点の写真から選別されたイメージは、絶望的なほどおぞましいのに、ときに美しいとさえ感じ るのが怖い。ピクトグラムや最小限のキャプションの構成が、事柄を繋ぎ合わせ一つの時代を客観視させてくれる。歴史の「影」を知ることは、未来を考える立 ち位置を教えてくれるのかもしれない。

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【本】★★★★
題名:きもの
著者:幸田文
出版社:新潮文庫
発行:1996

幸田文さんの文章にはどうしようもなく惹かれる。作者が手がけた最後の作品、かつ自伝的小説とも云われているだけあって、家族、人付き合い、たしなみ、成 長していく様が「きもの」をめぐり細やかに描かれている。主人公るつ子とおばあさんとのやりとり、問題の解決の仕方など、人生劇場で起こる様々な場面に 対処するときの心得とも云える。






おこるんじゃないよ。腹をたてるのは知恵がないからさ。」

「だから薬と男の効能書は、あてにできないよねえ。相性がわるけりゃ、毒になりかねない。」

「なんにも知らないんだね、この子は。非常の時は手をあけていなければ、手が手の役をしないじゃないか。つかまるのも助けるのもできないよ」

Book Picks

題名:街並みの美学
著者:芦原義信
出版社:岩波書店
発行:初版1979

都市計画や建築というと何やら難しいことだと捉えられがちですが、本当はずっと身近でもっと自然に楽しむまないともったいない。人の心理や風土などがいか に街並みに作用しているのか、西洋との空間の感じ方の違いや、日本人独特空間感を垣間みることができる名著です。

「人間はただ住むことによって存在する」というような、ほんとの意味での「住む」ことの充実感や定着感のよ うなものがいささか足りなかったのではないかという反省も出はじめた。

(p.146)



フィジカル・スラム:不衛生・老朽化など物理的なことが原因(発展途上国)
ソシアル・スラム:無関心・疎外感など精神的なことが原因(先進国)

(p.54)
都市は巨大なソシアル・スラムともいえる。


建築家は建築を設計するとき、100分の1や、2000分の1の縮尺で、図面をかきながら空間を考える。建 築家自身は100分の1、2000分の1の小人になって、この建築空間の中を駆け廻るのである。この1センチほどの小人になった建築家は、幻想的な空間を 想像しながら、創造の世界へと分けいってゆくのである。ものを創る喜びは、こんなところにあると思うのである。大きな空間、小さな空間に分割して、部分と 全体との間に多様の統一を現実することも、建築家の任務である。自然はもともと茫然として大きな空間である。その自然の中に空間を限定する要素を取り込ん で小さな空間を創り出すことが、人間の生活にとっていかに大切なことであるかがよくわかると思うのである。

(p.152)


夢見る力がないと何も創造することはできないということですね。

まづ第一に、「街並みの美学」を成立させるには、「内部」と「外部」の空間領域について、はっきりした領域 意識をもつことが必要である。即ち、自分の家の外までを「内部化」して考えられること、あるいは、自分の中までを「外部化」して考えられること、二つの領 域について空間を同視して考えられること、または、空間を統一して考えられることが肝要である。

(p,247)


西洋では、靴をはいたまま家の中にはいることで外部の内在化、内部の外部化が自然と意識に入り込むという。

あとがき

世界中を旅行してあちらこちらの都市や建築を見ると、地理的条件や気候風土、宗教、歴史等のちがいもさることながら、その基本となっている都市や建築の空 間概念が、われわれ日本人の概念と異なっているのではないかという疑問を抱くようになった。特にイタリアの都市や建築に興味を覚えるようになってからは、 その感を深くした。それは基本的には内部と外部との空間を限定する境界線のあり方であり、その存在に強い意味を持つのと持たないとの違いであり、また空間 を限定する領域のとり方の違いである。

(p.260)

Book Picks

本】★★★★★
題名:
集落の教え 100
著者:原広司
出版社:彰国社
発行:1998

建築家、原広司が20数年にものぼる集落研究と設計で学んだ精神が凝縮されている。100のキーワードで100集落が紹介され、風土に根付いた集落の多様 性から多くのことを学ぶことができる。随分前に購入し、時折気の向くままにページを開く。 写真集、詩集、設計の心得、人生の手引きとしても成立する名著。いろんな人に読んでもらいたい。眺めるだけでも楽しいです。



[36]空気
空気を設計せよ

世界には、いろいろな空気がある。これは、人びとが実感しているところで、「転地」するをa change of airと言ったりしている。集落には、それぞれ固有の空気があって、その空気は物理的に、温度や湿度によって支えられているのはもちろんであるが、光や音 が深く関係している。特に記憶に残る空気の質をあげてみれば、まずサハラ砂漠やイランの砂漠のなんともいえない快適な空気、アトラス山中のベルベル人集落 に見られる極度に透明な空気、インドの集落のまぶしくてたたずんでいられない空気などがある。
(中略)
空気は、建築的な概念ではなくて、体験される空間の性質を指し示している。したがって、空気の設計は、現実された都市の部分や建築の結果の状態の設計であ る。設計においては、辺りの空気とは異なった空気を表出すべきであること、

それが集落の教えである。

私たちにとっては、現代の空気の設計が要請されていることはいうまでもない。

(p.78-79)

Book Picks

【本】★★★★
題名:忘れられた日本人
著者:宮本常一
出版社:岩波書店
発行:初版1984

消え行く庶民の生活を克明に調査し続けた民俗学者、宮本常一の代表作。1939年から本格的に日本中を歩くこと計15万キロ(地球を4周)ほど。懐古主義 的な作品ではなく、村々の慣習や出会った古老の生き様が綴られている。その土地の言葉で淡々と語られる人生は、文学作品のようだった。

人々が死んでしまえば消えてしまう大切なことを懸命に記録し、後世に伝えていこうとした。「村の寄り合い」で学ぶことや「土佐源氏」も面白い。でも、一番驚いたのは田植え歌などに夜の営みを多く歌っていたことだ。それは、豊穣を意 味しているとも云われてるけど、とにかく公然とエロ話するというから慣れていないと少し恥ずかしい。しかし、作者の意見に全くその通りだと開眼するのでし た。


無論、性の話がここまで来るには長い歴史があった。そしてこうした話を通じて男への批判力を獲得したのであ る。エロ話が上手な女の多くが愛夫家であるのもおもしろい。女たちのエロばなしの明るい世界は女たちが幸福である事を意味している。したがって女たちのす べてのエロ話がこのようにあるというのではない。


女たちのはなしをきいていてエロ話がいけないのではなく、エロ話をゆがめている何ものかがいけないのだとしみじみ思うのである。

(p.129-130)


興味深い事柄は沢山あったが、
解説にあった著者の言葉はものすごく強く、響いた。


「私は長い間歩きつづけてきた。そして多くの人にあい、多くものを見てきた。」(中略)その長い道程の中で 考えつづけた一つは、いったい進歩というのは何であろうか。発展とは何であろうかということだった。すべてが進歩しているのであろうか。(中略)進歩に対 する迷信が、退歩しつつあるものをも進歩と誤解し、時にそれが人間だけでなく生きとし生けるものを絶滅にさえ向かわしめつつあるのではないかと思うことが ある。(中略)進歩のかげに退歩しつつあるものを見定めてゆくことこそ、われわれに課せられている、もっとも重要な課題ではないかと思う」

(p.334)

Book Picks

【本】★★★★
題名二次元の世界
著者:E・A・アボット(A Square)
(訳:高木茂男)
出版社:講談社
発行:1884

19世紀に書かれた幻想的な小説「FLATLAND」(平面の国)の全訳。二次元の世界に住むA Square(正方形)氏が、一次元、二次元、そして三次元に迷い込み、異次元を知るという斬新な切り口の物語。今でもすごい新鮮で驚きます。表紙もいい感じ。

二次元の世界では「高さ」というものがなく、みんな「線」か「点」に見える。軍人は「二等辺三角形」で、凶暴は人ほど鋭角になり危険。女の人「線」にも注意!高階層になればなるほど辺の数が増えて「円」に近くなるという世界です。一次元に入り込んだ正方形氏は、線の世界で「面」を説明しようとしても取り合ってもらえない。三次元では、「高さ」を目の当たりにしびっくり仰天。二次元の世界へ戻り、「高さ」について「上方へ、北の方ではなく」と説明するが… 結末は切ないが奥が深い。幾何学が動き回る世界が見事に綴られ、想像するだけでワクワクする。著者に関しては、ロンドンの牧師、学校の校長先生だったということぐらいしか情報がない。(ちなみに、ペンネームはA Square)想像力と創造力を膨らませてくれる素敵な先生だったことは間違いありません。子供から大人まで楽しめる素敵な本です。

《住人》広大な平面を動き回っている。彼らの姿は、直線、三角形、四角形……
《二次元の宇宙》南へ一定の引力がある。太陽はない。雨は常に北から降る。
《家》窓がない。なせなら光は時と場所とを問わず等しく届くから。
《階級》庶民はとがっていて、王は円に近い。
《平面の世界》すべてが直線に見える。ではいかに相手を確認するのか。

(著者アボットが創造した奇想天外な世界 より)