Book Picks

【本】★★★★1/2
題名:意中の建築 上下巻
著者:中村好文
発行:2005

建築家である著者が、長年温めてきた建築に対する思いがじんわりと伝わってくる。いわゆる建築史にそったものではなく、本当にいいと思える建築や空間が取 り上げられている。旧千代田生命本社ビルからはじまり、ジャンタル・マルタン、閑谷学校、ストックホルム市立図書館、王道もあれば、ウィーンの地下水道、 旗の台駅、シャーロックホームズ・ミュージアムなど、独自のデザインに対する視線が光る。手描きのスケッチは、やはりいいものです。





よく「目ざといタチだね」と言われます。人であれモノであれ、ほかの人より気づいたり見つけたりするのが早 いのです。外出先や旅先で、思いもよらない友人知人にバッタリ会ったりする偶然が異常に多いのも、結局は私が無意識のうちにあたりをキョロキョロ見まわし ているせいかもしれません。

(中略)

このように「目ざといタチ」と「観察癖」が人物に向けられると、いろいろ面倒を引き起こしますが、人物以外ならそうしたトラブルはまず起こりません。ひと こと付け加えますと、ここで言う人物以外とは、主に建築物や建造物のことで、私の場合、建築家という職業上の興味から、ごく自然にそういうところに眼がい くわけです。人物を観察する時、場所柄、老若男女、国籍、職業を問いませんが、建築の場合も同様で、古今を問わず、洋の東西を問わず、大小を問わず、貴賤 を問いません。歴史的な名建築であれ、路傍の粗末な小屋であれ、時には映画や絵画の中の建築であれ、私の眼を惹きつけ、興味をそそられるものなら、わけへ だてなく好奇の「じっと見」の眼差しを注いでしまうというわけです。

そして、ある時期からそのような心惹かれ見入った建築や、一目見ただけで忘れられなくなった建築が、自分の胸の裡にしっかり住み着くようになっていまし た。と、ここまで書いたら、もうお察しいただけることでしょう。

そう、それが私の「意中の建築」です。

上巻まえがきより(p.6)