【本】★★★★★
題名:なぜデザインなのか。
著者:阿部雅世 対談 原研哉
発行:2007
欧州をフィールドに活躍しているアーキテクトデザイナー・阿部雅世さんと、言わずと知れたグラフィックデザイナーの原研哉さんの濃密な対談本。建築、プロ ダクト、グラフィック、ワークショップ、書籍、生活など様々な事柄を行き来しながら、それら全ての根底にある「デザインとは?」という本質に触れている。
両者の実体験に基づいた歯に衣着せぬ言葉から、いままでの、そしてこれからの「デザイン」のあり方を、たくさんの人達と大切に考えていきたい。
デザインは世界をバランスさせていく合理性そのものと言ってもいい。デザインはその生い立ちからいっても理 想主義的な思想です。試行錯誤の果てに、最適な答えを見つけていくとか、すごくいい問いを発見するとか、ひたすら、一生懸命に考え続ける姿勢がデザインの 本質なんですね。問題解決のための方法はひとつしかない。「ひたすらみんなで考え続ける」ということでしかないんですよ。いろんな人たちが脳を運動させて いける問いかけをたくさんつくればつくるほど、好ましい方向に世界は自己組織化されていく。デザインはそういうことを考えるモチベーションとしてすごく強 力なもので、いま世界が求めている理性というか、世界を均衡させていく仕組みをちゃんとつくっていくという視点に、デザインは最初から立っていると思うん です。そういう意味でできるだけ多くの人たちにデザインのリアリティに目覚めてもらいたいと思います。(話し手:原氏 p.112)
「精神の風が、粘土の上を吹いてこそ、はじめて人間は創られる」というサン=テクジュペリの言葉(「人間の大地」訳:内藤濯)があります。生活哲学という 精神の風を、人に、素材に、技術に、吹き込むことで、私たちは、初めて「粘土の魂」や「技術の魂」を超えるものを創ることができるのではないでしょうか。 それによって、「モノ」は、便利でお得なだけではない、息遣いが聞こえてくるような生活の要素になるのではないかと。これからは、そういう質の高い創造 が、デザインに求められる時代になるのではないかと、そんなふうに感じています。(話し手:阿部氏 p.264)