Book Picks

【本】★★★★★
題名:HEAVEN&EARTH
(2002 / PHAIDON)

心の中で「出会えてよかった!」と思わず叫ぶ。「分けられないこの世界」を俯瞰できる、本当に素晴らしい写真集です。ページをめくる指先とともに、目頭が 熱くなっていた。

細胞、シナプス、精子、花粉、種子、地球、太陽、銀河系へと続くミクロからマクロの写真の羅列により、一対多の森羅万象の世界が現れる。「ああ、そういう ことなんだ」と言葉が後からついてきた。


生物学者や天文学者には、審美眼を持っている方が多いというのもうなずけます。
人が創り出せる領域とはまったく違う圧倒的な次元。

「美」の断片の数々を前に、しばし茫然とするのでした。

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Book Picks

【本】★★★★
名:終わりと始まり
著者:ヴィスワヴァ・シンボルスカ
(1997 / 未知谷)

1996年、一人のポーランド女性にノーベル文学賞が授与された。この本を紹介されるまで、私もこの方の詩は未読でした。そもそも詩が日常生活に介在して ないという現実に気づき、哀しくなる。原語が持つリズムや深みを理解できればもっといいのですが、それでも訳者の方が心を砕き日本語に置き換えていること は十分に読み取れます。詩のほかにノーベル文学賞記念講演のスピーチも収録されているのですが、これもとてもすばらしいです。








『終わりと始まり』


戦争が終わるたび
誰かが後片付けをしなければならない
何といっても、ひとりでに物事が
それなりに片づいてくれるわけではないのだから

誰かが瓦礫を道端に
押しやらなければならない
死体をいっぱい積んだ
荷車が通れるように

誰かがはまりこんで苦労しなければ
泥と灰の中に
長椅子のスプリングに
ガラスのかけらに
血まみれのぼろ布の中に

誰かが梁を運んで来なければならない
壁を支えるために
誰かが窓にガラスをはめ
ドアに戸口を据えつけなければ

それは写真うつりのいいものではないし
何年もの歳月が必要だ
カメラはすべてもう
別の戦争に出払っている

橋を作り直し
駅を新たに建てなければ
袖はまくりあげられて
ずたずたになるだろう

誰かがほうきを持ったまま
いまだに昔のことを思い出す
誰かがもぎ取られなかった首を振り
うなずきながら聞いている
しかし、すぐそばではもう
退屈した人たちが
そわそわし始めるだろう

誰かがときにはさらに
木の根元から
錆ついた論拠を掘り出し
ごみの山に運んでいくだろう

それがどういうことだったのか
知っていた人たちは
少ししか知らない人たちに
場所を譲らなければならない そして
少しよりももっと少ししかしらない人たちに
最後にはほとんど何も知らない人たちに

原因と結果を
覆って茂る草むらに
誰かが横たわり
穂を噛みながら
雲に見とれなければならない

(p.22)

Book Picks

【本】★★★★★
題名:アッキレ・カスティリオーニ
自由の探求としてのデザイン
著者:多木陽介
(2007/AXIS)

カスティリオーニの世界観が、見事にまとめられている。通訳としてデザイナーと関わり始めた著者の文章力もこれまたすばらしい。プロダクト、照明器具、展 示空間、建築と多岐に渡る活動が詩的な解説で綴られ、ストーリーテラーとして次々と飛び出すモノや空間。もっと自由に、そして日常を見つめる眼差しの大切 さをユーモアを交えて教えてくれる。本の装丁に思わず笑みもこぼれてきたり。




この文章の締めくくりに読者に一つ提案がある。カスティリオーニのつくった物やプロジェクト(デザイン)に ある古典としての価値を見い出すために、カルヴィーノがその著作『なぜ古典を読むのか』の中で挙げている、ある本を古典と言えるためのいくつかの条件を定 義する文のなかの「本」「書物」という言葉を「物」あるいは「プロジェクト(デザイン)」という言葉に置き換えて読み直して欲しいいのだ。いかにいくつか 例を挙げる。

1.
古典とは、読んでそれが好きになった人にとって、一つの豊かさとなる本(物)だ。しかし、これをよりよい条件で初めて味わう幸運にまだめぐりあっていない 人間にとっても、おなじくらい重要な資産だ。

2.
古典とは、忘れられないものとしてはっきり記憶に残るときも、記憶のなかで、集団に属する無意識、あるいは個人の無意識などという擬態をよそおって潜んで いるときも、これを読むのにとくべつな影響をおよぼす書物(物)を言う。

3.
古典とは、最初に読んだときとおなじく、読み返すごとにそれを読む事が発見である書物(物)である。

4.
古典とは、初めて読むときも、本当は読み返しているのだ。

5.
古典とはいつまでも意味の伝達を止めることができない本(プロジェクト/デザイン)である。

(古典としてのアッキレ・カスティリオーニより)

「デザインというのは一つの専門分野であるというよりは、むしろ人文科学、テクノロジー、政治経済などにおける批評力を個人的に身につけることから来る態 度(世界や仕事に対する取り組み方)のことです」

(p.20)