Book Picks

【本】★★★★★
名:利休にたずねよ
著者:山本兼一
(2008/ PHP研究所)

茶の湯や千利休に精通してなくとも、その神髄が何たるかが見えてくる。利休の審美眼、人物像、霞みの奥にある秘め事が、ランダムな時間軸に並べられた24 の茶の席と歴史上の人物とのエピソードとともに見え隠れする。こんなにも斬新な歴史小説があったなんて、驚きです。ページをめくる官能に酔ってしまうほ ど。厳選された対話の奥深さ、人情の機微の巧みな描写も本当にすばらしい。

詫び、寂び、黄金の茶室、北野大茶会……茶の湯を通じて向かい合う空間や茶道具、料理、真剣勝負の人生、男女、そして求められる美、すべてに共通している のは、なによりも『艶』のあり方にほかならないようです。

Book Picks

【本】★★★1/2
題名:廃墟建築士
著者:三崎亜紀
(2009/集英社)

普段、眠っているような想像力を刺激され、ちょっとした脳内革命。星新一のストーリー展開、安部公房の空間観がお好きなら、なおオススメ。本の装丁がこれ またニクい!4つの物語の中で、『廃墟建築士』、『図書館』が特に印象深い。新築の廃墟、偽装廃墟、磯崎新とは違う新たな廃墟のロマン。図書館を夜間開館 するために、図書館の野生を制御する「調教士」が必要だったり。読者の想像力が加わり成立する活字の世界に、不完全で無限の可能性を感じます。





いつか崩れ、自然へと回帰するその時を目指して造り続ける、
建築史の中の異端者、廃墟建築士。

(p.87)

かつて「彼ら」は、図書館という名前ではなく、
「本を統べる者」と呼ばれていた。

(p.105)

Book Picks

【本】★★★★
題名:変身
著者:カフカ
出版社:新潮文庫

ある日、目を覚ますと自分が巨大な虫になっていた。なぜ虫に?なんてことには、一切ふれずに物語が進むんでいく。虫になった主人公ザムザ自身の変身のようで、実はザムザの変身をきっかけに「変身」する家族が描かれている。カフカの小説をはじめて読んでみたが、淡々しながら、ちょっと笑ってしまう切なさや不条理の世界。はじめて感じる奇妙な新鮮さがあった。

Book Picks

【本】★★★★
題名:影をなくした男
著者:シャミッソー(翻訳:池内紀)
出版社:岩波文庫
発行:1985

自分の「影」を魔法の袋と交換してしまった男の話。なくても支障がなさそうな「影」だけど、ないと奇妙に扱われるの点もなんだかユーモアがある。金銭では 買えない人間の心理が描かれている。フランスの貴族の家に生まれ落ちた作者が、フランス革命によって「祖国」を失ったのは本当の話。物語に秘められている 「影」の受け取り方は、読者次第ですね。

【本】★★★★
題名:きもの
著者:幸田文
出版社:新潮文庫
発行:1996

幸田文さんの文章にはどうしようもなく惹かれる。作者が手がけた最後の作品、かつ自伝的小説とも云われているだけあって、家族、人付き合い、たしなみ、成 長していく様が「きもの」をめぐり細やかに描かれている。主人公るつ子とおばあさんとのやりとり、問題の解決の仕方など、人生劇場で起こる様々な場面に 対処するときの心得とも云える。






おこるんじゃないよ。腹をたてるのは知恵がないからさ。」

「だから薬と男の効能書は、あてにできないよねえ。相性がわるけりゃ、毒になりかねない。」

「なんにも知らないんだね、この子は。非常の時は手をあけていなければ、手が手の役をしないじゃないか。つかまるのも助けるのもできないよ」

Book Picks

【本】★★★★
題名二次元の世界
著者:E・A・アボット(A Square)
(訳:高木茂男)
出版社:講談社
発行:1884

19世紀に書かれた幻想的な小説「FLATLAND」(平面の国)の全訳。二次元の世界に住むA Square(正方形)氏が、一次元、二次元、そして三次元に迷い込み、異次元を知るという斬新な切り口の物語。今でもすごい新鮮で驚きます。表紙もいい感じ。

二次元の世界では「高さ」というものがなく、みんな「線」か「点」に見える。軍人は「二等辺三角形」で、凶暴は人ほど鋭角になり危険。女の人「線」にも注意!高階層になればなるほど辺の数が増えて「円」に近くなるという世界です。一次元に入り込んだ正方形氏は、線の世界で「面」を説明しようとしても取り合ってもらえない。三次元では、「高さ」を目の当たりにしびっくり仰天。二次元の世界へ戻り、「高さ」について「上方へ、北の方ではなく」と説明するが… 結末は切ないが奥が深い。幾何学が動き回る世界が見事に綴られ、想像するだけでワクワクする。著者に関しては、ロンドンの牧師、学校の校長先生だったということぐらいしか情報がない。(ちなみに、ペンネームはA Square)想像力と創造力を膨らませてくれる素敵な先生だったことは間違いありません。子供から大人まで楽しめる素敵な本です。

《住人》広大な平面を動き回っている。彼らの姿は、直線、三角形、四角形……
《二次元の宇宙》南へ一定の引力がある。太陽はない。雨は常に北から降る。
《家》窓がない。なせなら光は時と場所とを問わず等しく届くから。
《階級》庶民はとがっていて、王は円に近い。
《平面の世界》すべてが直線に見える。ではいかに相手を確認するのか。

(著者アボットが創造した奇想天外な世界 より)

Book Picks

【本】★★★★★
題名:三島由紀夫レター教室
著者:三島由紀夫
(1991/筑摩書房)

手紙つながりで、面白い本を紹介。三島由紀夫の印象が変わる小説。筆まめ5人の文通だけで物語が進んで行くというユニークな構成で、お礼のお手紙、告白、相談、脅迫など、手紙の持つ独特の ニュアンス、説得力が余す所なく発揮されている。登場人物も個性的です。







1.氷ママ子(45歳)
英語塾経営者 元美人のかなり太めな未亡人

2.山トビ夫(45歳)
有名なファッションデザイナーだけどキザで皮肉屋

3.空ミツ子(20歳)
ママ子の生徒だったが、英語のセンスは無し、仕事もミスが多い、
でも明るい笑顔なので人からは憎まれないお得な性格の持ち主。ピチピチと音がしそうな若さも魅力。

4.炎タケル(23歳)
お金はないけど芝居の演出の勉強をしている大まじめで理屈っぽい青年
暇はないが手紙だけはよく書く。

5.丸トラ一(25歳)
テレビ大好きのまるまる太った楽天家
空想の中では、自分が世にもスマートな青年だと想像している。

ママ子の手紙から5人のやりとりが始まり、手紙を通じてサバサバしたお付き合いを楽しんでいるかと思いきや、ドロリと腹黒さを見せてくれたりもする。人間 模様を浮き彫りにする手紙のやりとりはなかなか興味深い。

手紙のタイトルだけみると凄いのばかりですが、こんなにも軽快に書けるものかと読み応えあり。(人生でこのような手紙を書く機会がないことを願うばかりで すが…)

「借金の申し込み」
「同性への愛の告白」←これはなかなか勉強になりました!(女性必読)
「愛を裏切った男への脅迫状」
「招待を断る手紙」
「恋敵を中傷する手紙」
「心中を誘う手紙」…etc

ちゃんとレター教室になっているから、不思議です。

最後の「作者から読者への手紙」は、一度読んでおくと手紙の考え方がぐっと広がる気がします。