Book Picks

【本】★★★★
題名:建築の知の構造
著者:アレキサンダー・ツオニス
Alexander Tzonis
訳:工藤国雄・川口宗敏・木下庸子
(1980/ 彰国社)

たまに、名著にぶつかる。原始的空間、ルネサンス、モダニズムや近代といった、各時代の象徴的な形態を生み出す基盤となる思考をなぞりながら、著者は《抑 圧なき環境》をひたすら模索している。思考を学ぶことは、様式をひたすら記憶するよりも大切なことかもしれない。建築、都市、あらゆる創作活動に携わる人 たちに、ぜひ読んでもらいたい一冊です。





デザインは ’’社会的絵文字”である。

(P.241)

語りだけで人を魅了する講義をする方がごくたまにいる。
こういう至福の時、心の底からうらやましくなる。


彼は一枚のスライド(通例ここの人々は二枚のスライドを並べて使う)をたよりに延々と問題を解きほぐし、そのスライドの含む、あるいは示唆する問題の総体 へと、一歩一歩、いわばソクラテスの足どりで迫っていく。その点で、たくさんのスライドをまるであびせるように見せて、その資料総体にいかにもそれらしい 常識的な構図を与える彼の同僚の、いわば「見る授業」とは、著しく対称的だった。


(訳者まえがき より)

Book Picks

【本】★★★★
題名:鎮守の森
著者:宮脇昭
(2000/ 新潮社)

森を介して、不思議と日本人独特の世界観が見えてくる。前半では経験、実績、データなどで鎮守の森にアプローチし、後半は宮脇教授と板橋興宗禅師との対談 の二部構成。お二人のやりとりがとても興味深い。本書を読み進めながら、ふと四国の金刀比羅宮(こんぴらさん)奥社までの1368段をひたすら登り続けた 感覚が蘇る。頂上の崖に祀られた天狗を指差し「本当は、山そのものなんだ」と言ったおじさんの言葉。日本の土地にいまでも息づいている何かにうれしくな る。



宮脇:日本人は神様をまつった社だけでなく、取り囲む自然にまで神が宿ると考えて、ずっとそれを敬ってきた んです。キリスト教やイスラム教といった他の宗教ではまずありえない。(p.146)


板橋:最近、私は人々にこう放言しているのです。「日本には仏教はございません。本来の仏教はありません。『日本宗』があるだけです」と。仏教だけでな く、神道や儒教やら先祖崇拝を含めて、それらが渾然と雑炊のようになっている。いや、「にじみ」と言ったほうがいいですな。いい具合ににじんで、境目がわ からない。それがいい模様になっている。欧米の宗教家に言わせれば、そんなの宗教じゃないと言いますね。あえて言えば習慣だと。原始宗教とも言えない。ア ニミズムとかいうそうですけど、社会の慣習、習慣、習俗、そんなものとしか言いようがない。自分の信じているのは何なのか、きちんと答えられる日本人なん てほんのわずかでしょう。(p.148)