Book Picks

【本】★★★★
題名:構造デザイン講義
著者:内藤廣
(2008 /王国社)

「構造」や「デザイン」の既成概念をほぐす一冊。構造体の歴史や新たな手法や可能性を魚の骨やジェットコースターといった身近な例にあげ、わかりやすく解 説されている。建築家としての経験に裏付けされた言葉は説得力がある。錦帯橋や牧野富太郎記念館など、足を運んだ建築が出てくると素直に嬉しい。感性をよ り豊かに、凝り固まった知識には柔軟剤のような効き目があるはず。

地震大国でもある日本、被災地でどのような損壊かということもきちんと見ておくことを強調されていた。そこから学ばずして一体どこから学ぶのかというよう に。




「デザインは翻訳すること」

1.技術の翻訳:
高度な技術であっても一般の人に直感的に感じて
もらえる社会に開かれたデザインであること。

2.場所の翻訳
構造物が存在する場所の特性を理解し、
誰にでも分かるような姿形としてデザインに取り入れる。

3.時間の翻訳
一瞬、一日、一月、一年、一世代、数百年、数千年、地球や宇宙の時間。
どの時間と向き合うのか。その場所に流れている時間を感じ取り、
歴史を学び、敬意を払い、その上で引き継ぎ、未来に対して提言する。

(p.29-32)


翻訳の答えに「美」が内包されているのだろう。

ガウディ曰く、「オリジナリティとはオリジンに帰ることだ」

(p.71)

Book Picks

【本】★★★★
題名:建築の知の構造
著者:アレキサンダー・ツオニス
Alexander Tzonis
訳:工藤国雄・川口宗敏・木下庸子
(1980/ 彰国社)

たまに、名著にぶつかる。原始的空間、ルネサンス、モダニズムや近代といった、各時代の象徴的な形態を生み出す基盤となる思考をなぞりながら、著者は《抑 圧なき環境》をひたすら模索している。思考を学ぶことは、様式をひたすら記憶するよりも大切なことかもしれない。建築、都市、あらゆる創作活動に携わる人 たちに、ぜひ読んでもらいたい一冊です。





デザインは ’’社会的絵文字”である。

(P.241)

語りだけで人を魅了する講義をする方がごくたまにいる。
こういう至福の時、心の底からうらやましくなる。


彼は一枚のスライド(通例ここの人々は二枚のスライドを並べて使う)をたよりに延々と問題を解きほぐし、そのスライドの含む、あるいは示唆する問題の総体 へと、一歩一歩、いわばソクラテスの足どりで迫っていく。その点で、たくさんのスライドをまるであびせるように見せて、その資料総体にいかにもそれらしい 常識的な構図を与える彼の同僚の、いわば「見る授業」とは、著しく対称的だった。


(訳者まえがき より)

Book Picks

【本】★★★★
題名:映画的建築 建築的映画
著者:五十嵐太郎
(2009/ 春秋社)

建築と映画というのは目新しい関係じゃないけど、室内から架空都市まで話を展開させつつ、列挙されている映画タイトルに驚くばかり。次々と芋づる式に観た い映画が増えていく。映画を知っていれば、それだけ本著の理解が深まる。小津安二郎はもちろん、三谷幸喜の映画美術を担当する種田洋平論、リドリー・ス コットもヒッチコックも網羅しているが、知らない映画も多々あり。名映像空間へのガイドラインのよう。

Book Picks

【本】★★★★★
題名:建築家なしの建築
著者:バーナード・ルドフスキー
(1984 /鹿島出版会)

「人生で3000冊の本を読んでも、結局手元に置いときたいのは30冊あればいい」とある建築家の言葉が頭をよぎる。名著中の名著ですが、やっぱりこの一冊は入れたいと思ってしまう。1964年、NYの近代美術館で開催された同名の展覧会が、当時の名だたる建築家たちの熱烈な支持を集め出版されたもの。いわゆる建築史の文脈には入らない、世界各地の土着的な構造物の数々。決して色褪せない本物の力強さがあるのです。

風土的[vanacular]建築を崇め立てる気はないけど、
途方もない智恵の集積はやはり圧巻です。

Book Picks

【本】★★★★1/2
題名:意中の建築 上下巻
著者:中村好文
発行:2005

建築家である著者が、長年温めてきた建築に対する思いがじんわりと伝わってくる。いわゆる建築史にそったものではなく、本当にいいと思える建築や空間が取 り上げられている。旧千代田生命本社ビルからはじまり、ジャンタル・マルタン、閑谷学校、ストックホルム市立図書館、王道もあれば、ウィーンの地下水道、 旗の台駅、シャーロックホームズ・ミュージアムなど、独自のデザインに対する視線が光る。手描きのスケッチは、やはりいいものです。





よく「目ざといタチだね」と言われます。人であれモノであれ、ほかの人より気づいたり見つけたりするのが早 いのです。外出先や旅先で、思いもよらない友人知人にバッタリ会ったりする偶然が異常に多いのも、結局は私が無意識のうちにあたりをキョロキョロ見まわし ているせいかもしれません。

(中略)

このように「目ざといタチ」と「観察癖」が人物に向けられると、いろいろ面倒を引き起こしますが、人物以外ならそうしたトラブルはまず起こりません。ひと こと付け加えますと、ここで言う人物以外とは、主に建築物や建造物のことで、私の場合、建築家という職業上の興味から、ごく自然にそういうところに眼がい くわけです。人物を観察する時、場所柄、老若男女、国籍、職業を問いませんが、建築の場合も同様で、古今を問わず、洋の東西を問わず、大小を問わず、貴賤 を問いません。歴史的な名建築であれ、路傍の粗末な小屋であれ、時には映画や絵画の中の建築であれ、私の眼を惹きつけ、興味をそそられるものなら、わけへ だてなく好奇の「じっと見」の眼差しを注いでしまうというわけです。

そして、ある時期からそのような心惹かれ見入った建築や、一目見ただけで忘れられなくなった建築が、自分の胸の裡にしっかり住み着くようになっていまし た。と、ここまで書いたら、もうお察しいただけることでしょう。

そう、それが私の「意中の建築」です。

上巻まえがきより(p.6)

Book Picks

【本】★★★★
題名:住宅巡礼
著者:中村好文
出版社:新潮社
発行:2000

20世紀の名作住宅を著者が実際に訪れ、感じたこと、解説、スケッチをまとめたルポタージュ。コルビジェの「小さな家」、フィリップ・ジョンソンの「タウンハウス」、アアルトの「コエタロ」など全部で9軒を解説している。名作と呼ばれる所以を突いていながらも、「居心地」にこだわる建築家の文章やスケッチには、心身ゆるむ温度あり。「ほっ」としてしまう。





この貴重な旅から、私は住宅設計が、建築的な知識や、専門技術だけでは対処しきれないことを悟りました。つまり、住宅を設計する建築家は、「人間の住処」に対する豊かな夢想力の持主でなければなりませんし、人の心をとらえる説得力とキャラクター(これをカリスマ性と読んでもよいと思います)も備わっていなければならないことを知ったのです。

そして、なによりも、人間の行動や動作をつぶさに観察し、複雑な心理の綾を読み解き、市井の人々の喜怒哀楽に共感できる柔軟な心をもった「人間観察家」でなければならないことを教えられました。

つまり、住宅の設計は、大学の建築科を卒業し、ちょっと小才がきくぐらいで出来るような手軽な仕事ではなく、計り知れないほど間口が広く、また奥深いものであることを、そして、だからこそ住宅設計が面白いのだということを、あらためて学んだことになります。

両親の住宅の設計から四半世紀の時が過ぎました。
住宅設計の道は遥かに遠く、私の「住宅巡礼」は、まだしばらく続くことになりそうです。

中村好文 (「住宅巡礼」あとがきより)

Book Picks

【本】★★★★1/2
題名:藤森建築と路上観察
著者:藤森照信
発行:2006

第10回ヴェネチア・ヴィエンナーレ建築展2006日本館の帰国展の図録。初台のオペラシティで行われた展示は、藤森氏の魅力が力強く伝わってくると同時に、不思議な懐かしさがこみ上げてくる素晴らしいものだった。屋根にニラが生えている「ニラハウス」が表紙になっているのも美しく、そしてほほえましい。ちなみに現代美術作家、赤瀬川原平の自邸でもある。

本書の中で、建築史家、五十嵐太郎さんが藤森建築を下記のように述べている。だからこそ、海を越えてもなお、共通した懐かしさを多くの人に与えたのだと納得した。


藤森の建築は強い土着的な表現を発揮しながらも、どこにもない場所性を喚起している。つまり懐かしさを覚えるのだが、具体的な地域を指示するわけでもない。ゆえに、本人は「インターナショナル・ヴァナキュラー」だと説明している。(中略)藤森は、タンポポ仕上げの超高層計画も提案しているように、過去のノスタルジーに浸るだけの建築家ではない。さすがに建築史家だけあって、本人が的確に説明している。これまでは昔の伝統のグランドに戻って、今のグランドは面白くないぞと言う建築家はいたけれど、自分は現代のグランドを本気で逆走し、それが新鮮に見えたのだ、と。

(中略)

宮崎駿のSFアニメ映画『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラビュタ』の世界観が想起される。いずれも未来社会の廃墟において、テクノロジーが緑におおわれているからだ。藤森建築は、現代のグランドを逆走しながら、時間を早まわしにしている。つまり、過去ー現在ー未来という時間をかける建築なのだ。

(p.11)


中身箱の中には、趣きの違う冊子4冊と、「Yakisugi」というシールが張られた、焼杉のサンプルが入っている。持っているだけで、本当にうれしくなる図録です。

Book Picks

【本】★★★★
題名:藤森照信の特選美術館三昧
著者:藤森照信
出版社:TOTO版社
発行:2004

何がいいって、特選はもちろん藤森さんの文章がたまらない。独特の語りにウフフとなりながらも、読めばその建築をこの目で確かめたくなる。正規の名前以外 に、ひとつひとつ○○美術館と別名付き。色んな語りかたがあるけどこういう風に良さを語れる人は、本当にすごいなと思う。まだまだ行ったことのない所に、 思わず興奮する。

Book Picks

本】★★★★★
題名:
集落の教え 100
著者:原広司
出版社:彰国社
発行:1998

建築家、原広司が20数年にものぼる集落研究と設計で学んだ精神が凝縮されている。100のキーワードで100集落が紹介され、風土に根付いた集落の多様 性から多くのことを学ぶことができる。随分前に購入し、時折気の向くままにページを開く。 写真集、詩集、設計の心得、人生の手引きとしても成立する名著。いろんな人に読んでもらいたい。眺めるだけでも楽しいです。



[36]空気
空気を設計せよ

世界には、いろいろな空気がある。これは、人びとが実感しているところで、「転地」するをa change of airと言ったりしている。集落には、それぞれ固有の空気があって、その空気は物理的に、温度や湿度によって支えられているのはもちろんであるが、光や音 が深く関係している。特に記憶に残る空気の質をあげてみれば、まずサハラ砂漠やイランの砂漠のなんともいえない快適な空気、アトラス山中のベルベル人集落 に見られる極度に透明な空気、インドの集落のまぶしくてたたずんでいられない空気などがある。
(中略)
空気は、建築的な概念ではなくて、体験される空間の性質を指し示している。したがって、空気の設計は、現実された都市の部分や建築の結果の状態の設計であ る。設計においては、辺りの空気とは異なった空気を表出すべきであること、

それが集落の教えである。

私たちにとっては、現代の空気の設計が要請されていることはいうまでもない。

(p.78-79)